翻訳蒟蒻

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60年の時を経て、Facebookで人工知能の新たな夜明け

12月10日にWIREDに掲載された記事を訳しました。

60年の時を経て、Facebook人工知能の新たな夜明け

BY CADE METZ12.10.136:30 AM / WIRED

Facebookの新たな人工知能研究所の所長に、ニューヨーク大学教授のヤン・ルカンが就任した。彼のAIへの興味は、9歳の時に「2001年宇宙の旅」を見た時にさかのぼるという。

機械が人間と同じように情報を処理する人工知能というのは、さほど古いアイディアではない。1950年代後半、ダートマス大学で行われた会議において東海岸のとある学術団体がそのアイディアを発表し、そしてその10年後には独立系の映画を手がけるスタンリー・キューブリック監督が「2001年宇宙の旅」を発表した。恐ろしげながらも実に魅力的に表現された思考する機械というアイディアは、学術関係にとどまらず非常に多くの人々の想像力をとりこにした。

‘80年代前半、地元フランスで工学科の学生だったルカンは、現実のAI技術を研究していた。研究の一部は、「ニューラルネットワーク」と呼ばれる、人間の脳を模倣した機械学習に関するものだった。困ったことはただひとつ、あまりにも現実的な進歩がなかったために、アカデミズムがAIの分野に対してそっぽを向いてしまったことだった。「「機械学習」とか「ニューラルネット」は汚れ物扱いでしたよ」と、今年のはじめにルカンは語った。

しかしルカンはやめなかった。’80年台半ばまでに新たなアルゴリズムを開発し、比較的複雑なニューラルネットワークを扱えるまでになっていた。やがて研究は大西洋を飛び越え、ジェフリー・ヒントンという名の学者との共同研究に発展した。ルカンはフランスで博士号を取得すると、トロント大学で、ヒントンの強情なまでに挑戦的な人工知能研究グループに加わった。それから何年もの間、彼らとその他一握りの研究者たちは、その成功を信じるもののほとんどなかったプロジェクトに精魂を傾けた。「守り続けるのが非常に難しいアイディアでした」とルカンは言った。だが今や、状況は変わった。

ルカンがFacebookで研究を始める一方、ヒントンはすでに同じようなプロジェクトを数カ月前にGoogleで始めていた。彼らのニューラルネットワーク研究の中核をなすアイディアは、通常「Deep Learning(ディープ・ラーニング)」と呼ばれ、マイクロソフトIBMでも同様の研究がなされている。ヒントンとルカン、そのほか例えばモントリオール大学のヨシュア・ベンジオらの努力により、人工知能はまさにいま一大復興期を迎え、我々が日々利用しているオンラインサービスが用いているデータ分析手法が大きく変わろうとしてる。

Googleは、アンドロイドOSの音声認識サービスで既にディープ・ラーニングを利用しており、同様の技術は、画像やビデオに始まって、Facebookのような巨大ソーシャルネットワーク上のコミュニケーションのしかたに至るまで、全てに活用可能だ。

Facebookがディープ・ラーニングを使ってあなたの写真に写っている人の顔を認識できるなら、それらの写真を興味がある人たちと自動的に共有することも可能になる。AIがあなたの行動を一定の信頼性をもって予測できるようになれば、あなたがクリックしそうな広告をあなた向けに表示することも可能だ。「Facebookが写真に写っている製品のブランドを認識して、そのブランドに関連する広告を写真をアップロードしたユーザーに表示することだって可能だと思います」と、トロント大学でジェフリー・ヒントンとともにディープ・ラーニング・グループで研究している博士課程学生のジョージ・ダールは語った。

同じくヒントンとともに研究していたアブデルラーマン・モハメドにとって、可能性はほぼ無限だという。「驚くようなことが可能ですよー驚くべきことが」とモハメドは語る。彼はまもなくIBM研究所で音声認識チームに加わる予定だ。「Facebookにできることはほとんど無限ですよ。」ディープ・ラーニングとはつまり、コンピューターシステムの機能のしかたを改善することにほかならないというのが彼の主張だ。

Facebookは、ディープ・ラーニングを具体的に何に応用しようとしているかについては公表していない。しかしながら、それが会社の未来に対して大きな役割を担っていることは明らかだ。今週月曜、Facebookの創始者であるCEOのマーク・ザッカーバーグとCTOのマイケル・シュレーファーは、レイク・タホで開催されたAIコミュニティの年次会合である神経情報処理システム会議にて、ルカンの採用を発表した。また、この新規事業はカリフォルニア、ロンドン、そしてルカンが住むニューヨークを拠点とすることを明らかにした。

‘80年代なかば、ルカンとヒントンは「バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)」と呼ばれるアルゴリズムを開発した。これは基本的に、人間の脳のような多層神経ネットワークを用いて、複数のレベルで情報を分析する手法だ。モハメドによると、この神経ネットというのは、我々の肉体の働きと多くの点で似通っているという。

「私があなたに話しかけているとき、あなたはそれを複数の層で処理しているんです」とモハメドは説明する。「声を聞くのは耳ですが、それを解釈するのは別の層です。言葉を把握する層、概念を理解する層、そして全体として何が起きているのかを理解する層が存在するのです。」

基本概念は30年前から存在するが、コンピューターハードウェアの進歩のおかげで、やっと現実的研究といえるようなところに到達しようとしている。その背景には、大量のインターネット由来の現実世界のデータをディープ・ラーニングに取り込めるようになったことがあるのはいうまでもない。「かつて存在しなかった多くのものが、今まさに交わろうとしてるのです」と、モハメドは言う。

明らかになったのは、これらのアルゴリズムは、現代のウェブサービスを支える巨大コンピューター・ファーム、無数のタスクを同時に処理するファームで実行するのに適しているということだ。特に、数千ものグラフィック処理ユニット(GPU)で構成されるシステムが適している。GPUはもともと画像表示のために設計されたチップだが、今やそれ以外にも大きなパワーが必要な処理にも数えきれないほど多く活用されている。Googleによると、この種のディープ・ラーニング・アルゴリズムにはGPUが使用されているとのことだ

Googleのようなサービスならば’90年代後半ぐらいからAIを活用していたはずと考えるもしれない。しかしそこでいうAIとは、実際の脳の働きを再現しようとせずに手っ取り早く知性を模した別物だ。ディープ・ラーニングにはそのような近道などない。「脳とは必ずしも同じではありませんが、これは脳に最も近いモデルであり、膨大な量のデータを処理することができるのです」とモハメドは語る。

ハメドが指摘するとおり、我々はまだ脳の働きを完全には理解できていない。ディープ・ラーニングとは、我々の思考方法を実際に複製するという長い道のりなのだ。しかしながら肝心なのは、このやり方が、例えば音声や画像認識など、ある種の今時のアプリケーションに関しては上手くいくということだ。Googleがディープ・ラーニングを利用しているのもそのことが理由だし、マイクロソフトIBMも他にあらず。そして、Facebookがヤン・ルカンを採用した理由もそこにある。

とはいえ、この動きはまだ始まったばかりだ。「FacebookマイクロソフトGoogle、それにIBMも、ディープ・ラーニング法の可能性を最大限利用するには、あとどれだけの研究が必要なのかわかっている。だからこそ、今どこでも機械学習技術に対してこれほどまでに多くの投資を行っているんです」とダールは語る。「近頃はだいぶうまくいくようになりましたが、今あるエキサイティングなアプリケーションだって、何十年ものあいだ様々な人達が研究を重ねてきた成果なんだってことを忘れてはいけないと思います。我々が解決しようとしている課題は、実に、実に難しいものなのです。」

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ソース: http://www.wired.com/wiredenterprise/2013/12/facebook-deep-learning/ 60 Years Later, Facebook Heralds New Dawn for Artificial Intelligence BY CADE METZ12.10.13]

日本のガス「発見」までの3つのハードル

経済産業省資源エネルギー庁が3月12日、三重県沖でメタンハイドレートからの天然ガスの生産を確認したと報告しました。メタンハイドレートは海底に埋もれているメタンを含んだ氷の層で、日本近海には国内の天然ガス使用量のおよそ100年分もの埋蔵量があると言われています。エネルギー資源に乏しい日本としては、ぜひともこのメタンハイドレートを採掘・利用可能にしたいところですが、必ずしも容易な話ではないようです。

ニューヨーク・タイムズが、エネ庁の発表をもとにかなり前向きな記事を掲載しました。他にも同様のトーンで今回の出来事を報じるニュースサイトがあるようです。しかしながら、Giga OMでは、これに対してかなり否定的な見解の記事を掲載しています。かなり悲観的な見方の記事ですが、実用化に向けてどのような課題を克服しなければならないのかがよくわかります。

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日本のガス「発見」までの3つのハードル

by Sam Jaffe, Guest Contributor / Giga OM

ニューヨーク・タイムズ報告によると、日本がついに海中からの天然ガス採掘に成功したそうだ。これは一見重要なニュースのように思えるかもしれないが、実際のところ新しくもなければ重要でもなんでもない。炭化水素の資源としてメタンハイドレートが利用可能なのは何世紀も前からわかっていることだ。

そしてその間ずっと、人々はそれを掘り出したいと夢見てきた。しかしながら、夢と現実との間には大きな隔たりがある。日本の研究プロジェクトが達成したのは、メタンハイドレートを経済的かつ安全に利用できるようになるまでのほんの小さな一歩にすぎない。夢を実現するためには幾つもの大躍進が必要だ。

1) 環境制御: メタンハイドレートとは、僅かなメタン分子が内部に閉じ込められた氷の結晶のことだ。しかしこの結晶というのは、冷凍庫にあるような氷とはわけが違う。結晶は格子状の構造をしていて簡単に崩れてしまう。したがって、メタンハイドレート床に衝撃を与えると結晶が連鎖的に崩壊し、海底からメタンガスの大噴出を引き起こしてしまう可能性がある。

これは二つの理由でよろしくない。採掘したいガスは捉えることができず、泡となって大気に放出される貴重な炭酸水素には二酸化炭素の20倍近い温室効果があるのだ。古代の地球温暖化の原因として海底から放出されたメタンをあげる人もいる

すぐに崩れてしまう堆積層を刺激しないようにドリルパイプを突き刺すことなど出来るのだろうか?何かしら答えはあるのかもしれないが、現時点では解決方法を知る人はいない。そして、日本の掘削実験がその点において成功したことを示す徴候はみられない。

2) 経済性: ほとんどのメタンハイドレート埋蔵物は数十または数百フィートの泥と砂利の堆積物の下にある。泥とメタンの層の境界は非常に曖昧だ。したがって、表面まで掘り上げた液体には大量の無関係な物質が含まれていることになる。比較的容易に解決できる問題ではあるが、それにはコストがかかる。

メタンとそれ以外の物質とを分離するのは莫大な費用がかかる作業で、(炭層メタンやシェールガスのような)「がっしりした」天然ガス資源の精製にかかる費用とは比べ物にならない。このコストを回避する容易な方法というのは存在しない。つまり、海底メタンの抽出にかかるコストは、その他のガス堆積物にかかるコストよりも常に割高になるだろう。現在のMMBTU(訳注: BTU=英国熱量単位。MMBTU=百万BTU)あたり$3.64というガス価格では、メタンハイドレートプロジェクトに投資したいという人はいない。

3) インフラ: 現時点では、海底のメタン堆積物を採掘し、処理し、運搬するための産業インフラといものが存在しない。これまでの非常に稠密な地下堆積物とは違い、海底メタン床は極度に広大な領域に広がって存在している。

メタンを一時的に抽出するだけであれば、資源のある場所にあわせて移動可能な専用の浮遊設備があればよいだろう。ハイドレートを収集して利用可能な燃料に転換するために全く新規にインフラを構築しなければならないというのは、絶対無理というわけではないものの、全く新しく未検証な設備に数百億ドルを投資することをためらわせる理由としては十分だ。

日本の「発見」に対する興奮気味のレポートの中には(既にいくつかの日本カナダの実験でメタンをハイドレート床から取り出すことに成功しており、今回の日本のプロジェクトには実際にはなにも新しいところはない)、全く新しい化石燃料資源を偶然発見したかのような主張をしたものがあるが、実際はそこまで素晴らしいものではない。

確かに、世界中の海底には莫大な量ののメタンが埋もれている。そしてまた、それを外に取り出す方法もきっとあるだろう。しかしおそらく、メタンのほとんどは今後数世紀は埋もれたままでいる可能性が高い。

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ソース: 3 hurdles for Japan’s gas “discovery” MARCH 14, 2013

アップルを見つめる

THE NEWYORKERの電子版に掲載されている、このところのアップルの株価の不調についての記事を翻訳しました。

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アップルを見つめる

BY JAMES SUROWIECKI MARCH 4, 2013 / THE NEWYORKER

誰もがアップルを崇め奉っていたのはそう遠くない昔。世界のテック企業で最高益を記録し、評論家は、アメリカの歴史上初の1京ドル企業になるかもしれないと予想した。ほんの数ヶ月のあいだになんという変わり様だろう。9月以来株価は35%も急降下し、時価総額で2千億ドル以上が失われた。1月の収益報告に投資家は落胆し、アナリストたちは収益見込みを下方修正している。今や、アップルに関する予想には「大きなトラブルを抱えている」とか「クールさを失いつつある」、さらには単に「終わっている」というような言葉があふれかえっている。識者だけにはとどまらない。ヘッジファンドを経営するアクティビストのDavid Einhornは、この危機を利用してアップルに対し、アップルが保有する巨額の現金を株主に吐き出すよう圧力をかけた。

一体この突然の凋落ぶりはいかなるものか?いくつかのミスはあった。例えばパッとしなかったiPhone 5のリリースと、それに続くマップ絡みの大失態。それに、スティーブ・ジョブズの不在も明らかに人々の心に重くのしかかっているだろう。しかし、もっと具体的な理由が一つある。それは、やっとのことで競合他社がマシな仕事をするようになり、顧客が求めているような携帯電話を作り始めたことだ。そういった中で一番の注目はオーバーサイズの携帯電話、別名「ファブレット(phablet)」と呼ばれるサムソンのGalaxy Noteで、同一カテゴリー中一番売れている製品だ。ファブレットとはこれまでの携帯電話よりは大きく、タブレットよりは小さく、その名前同様収まり悪くてポケットに入れるには大きいし電話をかけるにはちょっと重い。ファブレットはアメリカではまだまだニッチな製品だが、海外特にアジアでは昨年後半に爆発的なセールスを記録した。そして、アップルにとって残念なことにiPhabletは存在しない。Jefferies & Comapnyのマネージング・ディレクターでアナリストのPeter Misekは、昨年秋までアップル楽観論者だっと語った。「アップルがそうだったように、我々もまたスマートフォンを買う人はタブレットも買うものと想定していた。持ち歩き用とネットサーフィン用として。」と。「だが蓋を開けてみれば、特に低所得者の地域では、両方共買える人はいないし、買おうというひともいない。その代わりに売れているのが両方がひとつになったデバイスというわけ。」これはつまり、ファブレットがiPhoneiPad両方のマーケットを奪っていくという話だ。

ファブレット現象の背後にあるさらに大きな懸念が、アップルがグローバルマーケットでの影響力を失う可能性だ。アップルが独占的地位にあるアメリカでは、50%以上の消費者が既にスマートフォンを所有している。したがって、収益を維持するためには新興国のマーケットにおいてビッグプレーヤーになることが極めて重要だ。この点においてアップルにはハンデがある。それはつまり、アップルはファブレットを持っておらず、低価格版のiPhoneも持っていないということだ。Misekはまた、世界の多くではiPhoneはアメリカにおけるほどの魅力を持たないと指摘する。なぜならばiPhoneを取り囲むリッチなコンテンツとアプリのエコシステムが存在しないからだ。

これは深刻な問題であり、株主たちにこれまで経験したことのない多難な前途が待ち構えているのは間違いない。とはいえ、現時点ではアップルの各指標は好調を示しており、パニックすべき理由は見当たらない。保有する現金はS&P 500ほぼすべての企業を上回っている。携帯電話の世界売り上げ上位2機種はアップル製だ。アメリカ市場は成熟してきたとはいえ、依然とし莫大な利益を生んでいて降参するにはまだまだ早いし、スマートフォンでもタブレットでも、アップルこそがマーケットリーダーだ。また、タブレットは圧倒的な世界シェアを誇っている。それに、競合他社と異なり、売上利益率は並外れている。ある調査によると、世界の携帯電話市場の2012年の全利益のうち、69%はアップルが占めているとのこと。株が市場平均をはるかに下回る株価収益率で取引されている会社とは思えない。

当然ながらアップルとて生き残るためにはイノベーションを継続しなければならないのだが、心配の多くはアップルもついにこの分野で「壁にぶつかった」のではなかろうかという点にある。しかし、これまでだってずっと、偉大なアイディアを生み出すエンジンもついに停止か、などと言われ続けてきた。アップルが小売店をオープンし始めた時も、BusinessWeekは「失礼、スティーブ。:アップルストアが失敗する理由」などというタイトルで記事を掲載したものだ。iPodもはじめはただの高額すぎるMP3プレーヤーとみなされたし、iPadのリリースも随分と物笑いの種になった。ジョブズが仕切っていた時でさえ、アップルは「怠惰になった」などと繰り返し指弾された。過去の業績は将来の売上の証明にはならないのは、モトローラのブラックベリーが良い例だ。だがしかし、アップルの墓碑銘が以前にも刻まれたことがあるという事実があるからこそ、死の鐘が聞こえるという話にも懐疑的になろうというものだ。ファブレットや安価な携帯電話を製造できなかったのは誤りかもしれないが、それは修復可能な誤りだ。アナリストたちも概ね確信している。この夏アップルは安価なiPhoneを出すに違いない。この会社はまずはじめに高額な製品を出し、あとから安価なバージョンを出すのが得意技なのはわかっている。iPodがShuffleやNanoを生み出したのを考えてもみよ。新しいiPad miniもしかり。もっと重要なのが、アップルにはまだまだたくさんの打ち破るべき壁が残されているということだ。多くの人々が、アップルが次に狙っている大物がテレビだろうと考えている。これはただの新製品ではなく、新しい製品カテゴリーだ。とはいえ、Misekはアップルの将来に関して慎重で(株については保留を推奨している)、そのような新製品は、消費者をこの先何年も壁の中のアップル製品の庭園に閉じ込めてしまうものだと考えている。

これまで、アップルはテクノロジーマーケットの常識を無視してきたにも関わらず(だからこそ)成功してきた。つまり、ハードウェアとソフトウェアの両方を製造し、クローズドなプラットフォームを貫き、製品サイクルは長く、価格よりも品質を重要視した。いわゆるマルハナバチ、飛べるはずがないのに飛べるというやつだ。飛行機がちょっとでも揺れれば、きっと墜落するに違いないと言い出す人がいるものだ。

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ソース: THE NEWYORKER - EYEING APPLE BY JAMES SUROWIECKI MARCH 4, 2013

バッテリー技術ならアメリカもまだ負けていない

gigaomに2月29日に掲載された記事を訳しました。

米エネルギー省高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency - Energy: ARPA-E)が主催するエネルギーイノベーションサミットが2012年2月27日から29日まで開催されました。バッテリー技術についてはこれまで日本と韓国の2強がコンシューマー向け市場を支配してきましたが、どうやら電気自動車や電力網など、今後大きな需要が見込まれそうな分野では、アメリカが市場をリードしそうな勢いがあります。日本もコモディティ化が進んだコンシューマー向け市場には早く見切りをつけたほうが良いかもしれません。

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バッテリー技術ならアメリカもまだ負けていない

ケイティ・ヘーレンバッハ、2012年2月29日 / gigaom

バッテリー技術に関しては日本と韓国のバッテリー界の巨人たちが長きにわたって世界を支配してきた。ラップトップパソコンや消費者向け電子製品のバッテリーについて言うなら、この状況はまだ続きそうだ。しかしながら、今週開催されたエネルギー省主催のARPA-Eにおいて、十数社のバッテリー関連企業や研究所が、電気自動車や電力網向けのバッテリーに関する新技術を披露した。このことは、プロトタイプのレベルではあるものの、バッテリーに関する技術力がアメリカではまだまだ健在な証拠であり、次世代の交通及び電力網技術をアメリカがリードする可能性を示唆するものだと言えるだろう。エネルギー省長官のスティーブン・チューは火曜日に行った講演で、この3~4年におけるアメリカ国内のバッテリー技術の進歩は「夢のようだった」と述べた。ARPA-Eにおけるこれらバッテリー関連企業へのインタビューの中で、多くのCEOたちが、電力網やEV向けの蓄電技術の出現を指して新たなブームであると述べた。

チューは講演のなかで、Vorbeck Materials社というスタートアップ企業が、パシフィック・ノースウェスト・ナショナル研究所(PNNL)及びプリンストン大学と共同で、グラフェンを使った次世代リチウムバッテリーの開発を行なっていることに触れた。ウォルマートの前CEOリー・スコットは講演で流体エネルギーについて語り、氏が取締役を務めるアリゾナ州フェニックスのバッテリー関連企業が、充電可能な金属空気電池を製造していると述べた。

シリコンバレーでバッテリーを製造しているEnvia Systems社は今週、走行距離300マイル(480キロ)レンジの電気自動車向けの高エネルギー密度バッテリーを、2万5千から3万ドル程度のコストで製造可能とするブレークスルーを実現したとARPA-Eにて発表した。Enviaは、ベンチャーキャピタルゼネラル・モーターズ社、そしてエネルギー省からの支援を受けている。「電気自動車向けバッテリーの開発レースは、日本、韓国、そしてアメリカの3カ国が先頭を争っている」と、Envia Systems社CEOのアトゥール・カパディアはARPA-Eでのインタビューに答えて言った。Enviaはグローバルなバッテリー製造企業とパートナーシップを結び、その技術をライセンス提供するかジョイントベンチャーを立ち上げたい目論見だ。

ニュージャージーを拠点とするスタートアップ企業のEos Energy Storage社は、空気と亜鉛を使った電力網向けの低コストなバッテリーを製造中で、キロワット時あたり160ドルのコストで2年以内に製品化する狙いだ。同社社長のスティーブ・ヘルマンはインタビューに答えて、電力網向けバッテリーの技術革新に関してはアメリカがリードしており、他の国でARPA-Eのようなイベントを開催しても、会場を新技術で埋めることは難しいだろうと述べた。

ビル・ゲイツが出資するソディウム製バッテリー製造のスタートアップであるLquid Metal Battery社のCEOフィル・ジュディチェもまた、電力網向けバッテリーの分野ではアメリカが支配的と語った。電力網向けバッテリーの技術革新及び投資に関しては、アメリカは他の国と比較して「10倍以上の活動」を行なってきたという。同社は今年、液体金属の層と層の間に溶融塩を挟み込んだバッテリーの開発を進める予定だ。

ARPA-Eでは、その他の蓄電技術関連企業として、マグネシウム製バッテリー技術を開発しているPellion社、高エネルギー密度キャパシタ開発のRecapping社、空気電池及び液体電池を所有するPolyPlus社などと話をすることができた。軍やJohnson Controls社などの政府系もまた、自前で蓄電技術を開発している。

しかしながら、初期段階の科学技術革新というのは一般的にホームランを打てる会社というのはそう多くない。ビル・ゲイツは火曜日のスピーチで、この手のバッテリー・プロジェクトの失敗率はおそらく90%に上るだろうと述べた。だからこそ世界は何千ものアイディアを試してみる必要があるのだと。

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ソース: gigaom - Battery innovation is alive and well in the U.S. Feb. 29, 2012, 5:00am PT

(http://gigaom.com/cleantech/battery-innovation-is-alive-and-well-in-the-u-s/)

スティーブ・ジョブズの死がこれほどまでに悲しいのはなぜか

スティーブ・ジョブズが亡くなって2週間ほどが経ちました。今日はアップルの本社で社員向けの追悼式があったようです。

私自身アップルのエコ・システムにどっぷり浸かっていて、人からは信者と言われるほどです。本人は盲目的にアップルやジョブズを崇拝しているつもりはありませんでしたが、彼の死は、まるで親しい友人を失ったのと同じぐらいの衝撃を私に与えました。会ったこともないジョブズの死が、なぜこれほどまで悲しいのだろう?という私の疑問に、少なくとも同じように感じている人が他にもいるということを教えてくれたのが以下の記事です。

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スティーブ・ジョブズの死がこれほどまでに悲しいのはなぜか

レックス・フリードマン、Macworld.com 2011年10月7日午前4時 / Macworld

TwitterFacebookで、メールやIMを通じて、同じ問が繰り返されている - どうしてこんなに悲しいのかと。一度も会ったことのない人の死に対して、自分の心はなぜこれほど激しく反応するのだろうかと。

我々の多くは、スティーブ・ジョブズの死に接し、途方もない悲しみを感じている。私の友人達がスティーブの死からどのような影響を与えたのかを代弁することはできない。しかし、想像するに彼らの涙の理由は私のそれと同じではなかろうか。

ようこそ我が家へ

RIMのCEO達の名前はどちらも知らない。GoogleのCEOのラリー・ペイジの名前は知っているが、正直言ってリストの中からどれが彼か当てろと言われたらわからないし、ラリーが話す声を実際に聞いたことがあるかどうか覚えがない。けれど、スティーブ・ジョブズなら、その容姿も話すときの声もはっきりと分かる。すべてのCEOが自社の製品を華麗にプレゼンできるわけではないし、そうあるべきだとも思わない。しかし、私がスティーブの基調講演やアップルのイベントでのプレゼンを見て感動するのは、あの誰もが絶賛するショーマンシップのせいばかりではない。ジョブズが仕切るイベントが、見ていてとてもエキサイティングなのは、発表する製品に彼が抱いている情熱が本物であり、それが手に取るように分かるからだ。スティーブは単にアップルを経営していたのではない。彼はアップルを愛していたのだ。彼の表情には、その愛と誇りで輝いていた。

テレビの役者なら知らない人でもうちにあがってもらってもいいという人がいる。なぜならテレビの役者は毎晩我が家に姿を現しているのだから。アップルのイベントのたび、スティーブもうちに姿を現した。Macのあるところならどこにでも。私はいつも、まずはライブログに目を通し、それからアップルがビデオを公開するやいなやそれを見たものだ。彼のインタビューも数えきれないほど見てきた。彼の死が私にとって衝撃的な理由の一部は、私が彼をまるで知り合いのように感じているからだと思う。たとえ彼が私のことを知らなくても。

ジョブズの作品

もう一つの理由は、アップル製品に感じる親しみやすさにある。私たちは知識の上では、iPadを作ったのもMacBook ProをデザインしたのもiPhoneを発明したのも、スティーブ一人の力でないことは理解している。しかし、これらの製品に彼の精神が刻み込まれていることは明らかだ。それに私は自分のiPhoneを単に使用しているのではない。iPhoneを愛しているのだ。MacとiPadにも同じことが言える。文字通りではないが、アップルの見事にデザインされた製品を使っていると、スティーブ・ジョブズが自ら手を触れ、そこに署名し、自ら私のために用意してくれたテクノロジーを使っているような気になる。

現在の家庭用コンピュータの発明は、まさにスティーブとスティーブ・ウォズニアックとの功績によるものだ。インターネットの存在は直接的にはアップルによるものではないが、今日世界がこれほどつながりあっていると感じているのも、彼らのビジョンなくしてはこうはならなかっただろう。私がニュージャージーの自宅にいながらサンフランシスコの会社に勤められるのも、ニュージャージの自宅から、なんとイスラエルにいる甥や姪たちとビデオチャットできるのもインターネットのおかげだし、インターネットが今日このようにあるのはスティーブの影響力あってのことだと信じている。だから、スティーブがいなくなって悲しい理由の一部は、やはり彼は私のことを全く知らないが、私の人生に対する彼の影響力が非常に私的だからだ。

そしてまた、アップルがどれくらいの製品をひっそりと開発計画にのせていたとしても、スティーブが会社の将来に対してもはや直接的影響力を持っていないのが悲しい。アップルはCEOティム・クックのもと、今後もきっと成功し続けるだろう。しかしながら、もはやスティーブ・ジョブズがアップル製品の詳細に対して決断を下すことはないのだと考えるとこの上ない失望を感じる。

ジョブズという人

スティーブの与えた影響については以前すでに書いた。その影響力はテクノロジーをはるかに超えていた。スティーブが会社を興したのでなかったら、もちろん必然的に私は今日Macworldで記事を書いていないだろう。だがスティーブのおかげで実際私がMacworldで働くようになったのには、もっとずっとはっきりとしたきっかけがある。私は、彼のこのしばしば引用されるスタンフォード大卒業式でのスピーチを聞いて、とあるキャリアを去ってもっと情熱を傾けられる別のキャリアへ進むことを決意したのだ。

私は、自分をつき動かし続けてきたのはただひとつ、自分の仕事を愛しているという事実だけだと確信しています。みなさんも、ぜひ愛せるものを見つけてください。そしてそれは仕事について言えるのと同時に、恋人についても同じことが言えるのです。仕事は人生のかなりの部分を占めることになります。ですから、本当に満足したければ、素晴らしいと確信できる仕事をすることです。そして素晴らしい仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することなのです。まだそれを見つけていないなら、探し続けてください。腰を落ち着けてはいけません。

スティーブ・ジョブズのインタビューを見ると常にインスピレーションを感じる。私の長いお気に入りに、ある年のD8カンファレンスで彼が自分の経営スタイルについて答えたものがある。重要なのは最高のアイディアであって組織階層ではないと考える彼の回答は目新しくも革新的でもなかったが、彼の言葉の明白な率直さに私は打たれた。

我々皆と同様、スティーブにも欠陥がなかったわけではない。しかし、もっとも惜しまれるのは彼の情熱だ。彼は紛れもなく頭の切れる人物だったし、彼の言葉は彼の業績と等しく感動的だった。もはやそのいずれも見聞きすることが叶わなくなったということが何よりも悲しい。

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ソース: Macworld - Why Steve Jobs's Death Feels So Sad by Lex Friedman, Macworld.com Oct 7, 2011 4:00 am (http://www.macworld.com/article/162833/2011/10/why_steve_jobss_death_feels_so_sad.html)

アップルがクラウド音楽サービス向けにライセンス契約を交渉している理由

6月1日にGigaOMに掲載された記事を訳しました。

6月6日に予定されているApple Worldwide Developer Conferenceで、iCloudと呼ばれる新たなサービスがアナウンスされるそうです。その内容については多くの予測がありますが、おおよそネットワーク経由で音楽を聴くことが出来るサービスだろうというのは間違いなさそうです。この記事では、ネットと音楽の関係について、米国における著作権の観点からアップルの課題を説明しています。

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アップルがクラウド音楽サービス向けにライセンス契約を交渉している理由
By Weldon Dodd Jun. 1, 2011, 3:25pm PT / GigaOM

ここ数週間というもの、アップルがレコードレーベルや出版社とクラウドベースの音楽サービス向けのライセンスについて鋭意交渉中であるという噂が飛び交っている。しかしながら、アップルが交渉しなければならない理由は何なのだろう?アップルは既に、iTunesミュージックストアで音楽を売る権利を持っていたのではなかったか?それを理解するためには、音楽のライセンスというものがどういうものなのか、なぜアップルが音楽業界と協業しようとしているのか、そのあたりを見てみる必要がある。

歴史に踏み込んだ議論を避けておくと、音楽著作権が他のメディアと比べて独特なのは、法的にみると二つの権利が同時に存在する点だ。一つは作曲に関するもの、もう一つは録音された演奏に関するものだ。法的には、音楽をダウンロード販売したり、ラジオで放送したり、バーやレストランで演奏したりする場合などは、通常ライセンス許諾やロイヤリティの支払いといった形で両方の権利者から許可を得る必要がある。ライセンスは出版社やレコードレーベルが取り扱い、特定の利用に関する包括契約は演奏権利団体(Performing Rights Organization:PRO)が提供する。ASCAP、BMI、SESAC、SouneExchangeそしてHarry Fox Agencyなどがこれにあたる。

例えば、映画やテレビなどで音楽を利用するための「同期化」権や、コンピレーションアルバムに曲を入れるような特定の利用については具体的な契約が必要となる一方、CDには、消費者が私的目的のために再生することを暗黙に認めるライセンスが付与されている。CDを公衆の場で演奏することは許可されない。しかしながら、アメリカの音楽産業は、公衆での演奏を目的とした利用であっても、特定の場合はこれを認めるようにライセンスを単純化することがその利益にかなっていることを、かなり前に認めている。例えば、自分のレコードで他人が作曲した曲を録音したり、ヒップホップの曲で短時間のサンプリングを利用したり、バーやレストランでCDを再生したり、ラジオで曲をかけるような場合だ。これらの場合の使用料は連邦法により規定されている。このような法定許諾(Statutory License)により、ラジオ局は、一曲ごとに出版社やレコードレーベルと具体的なライセンス契約を交渉することなしに、曲を放送することができるわけだ。

歴史的経緯から、米国著作権法はラジオ放送に関して特殊な扱いをしてきた。というのは、ラジオ放送の場合、出版社に対して作曲者への出版ロイヤリティは支払う必要があるが、レコーディングアーティストやその所属レーベルに対しては演奏ロイヤリティは支払わなくてもよいのだ。この取り決めが公平だと考えられていたのは、レコーディングアーティストにとって、ラジオ放送はレコードの宣伝になり、売り上げに結びつくと考えられたからだ。90年代半ばに登場したインターネットラジオは、そのような状況に一石を投じた。というのは、全ての曲がインターネットを介してストリーミングされるようになれば、使用料を得られるのは作曲家だけで、レコーディングアーティストには一円も支払われなくなってしまうからだ。

この15年ほどのあいだ、音楽業界は、全ての関係者 - 作曲家、音楽出版社、レコーディングアーティストとレコードレーベル - が補償されるような取り決めのあり方を模索し続けて来た。AMラジオの時代に作られた法律や契約は、変化し続けるテクノロジーの前に破壊し尽くされてしまったのだ。既存の法律は、衛星放送やインターネットラジオのような非双方向デジタルストリーミングサービスに関しては、出版と演奏双方のロイヤリティを支払うよう求めている。一方、伝統的なAM/FMラジオのような放送については出版ロイヤリティのみ支払えば良い。双方向オンラインサービス(例えば、Rhapsody、RdioやSpotifyのようにユーザーが曲を選べるもの)については法定許諾は認められず、出版社およびレコードレーベルと交渉して協定を結ばなければならない。

アップルにとって問題なのは、新しいクラウド音楽サービスにより、その役割を音楽小売業から放送局や双方向ストリーミングサービス業者に変える必要があるかどうかの見極めだ。インターネット経由で曲が再生されたりストリーミングされる度にロイヤリティを支払わなければならないのか?法定許諾料を支払えばよいのか、レーベルとの交渉が必要か?

アマゾンは出版社やレコードレーベルとは合意しないという選択をした。グーグルはレーベルから交渉の席で肘鉄砲を食らわされ、今は同じような状況だろうと噂されている。両社とも、提供するサービスは単なるデジタルダウンロードを保管する場所を提供するサービスであり、ダウンロードされたデータはユーザーが恒久的なライセンスに対して支払い済みのものだと主張している。主張によれば、デジタルメディアプレーヤーを使ってクラウドに保管されたファイルにアクセスするのも、自宅ネットワークでコンピューターのハードディスクに保管されたファイルにアクセスするのも同じことだという。

アップルのアプローチは直球で、合理的なコストで音楽サービスを提供できる方法を、出版社とレコードレーベルと協力して見いだそうとしている。噂によると、アップルのサービスは無制限の双方向音楽提供サービス(RhapsodyやRdio)ではなく、購入済みの楽曲にオンデマンドでアクセスできるだけのものであるようだ。

報告によると、目玉の一つに「スキャンアンドシンク」と呼ばれる機能があり、これによって、ユーザーの音楽ライブラリのなかでアップルが既にファイルを持っているものがある場合は不要なアップロードを省略できるという。レコードレーベルが心配しているのは、アップルが消費者のコンピュータにある違法コピーの曲をスキャンしてしまい、アップルのサービスが所有する合法なコピーを「同期」して提供してしまわないかという点だ。噂によれば、これを解決するために、アップルが曲が「同期」されるごとに、それがiTunesストアで購入したものかどうかにかかわらず、幾ばくかの金額を支払うつもりではないかと言われている。アップルにとっては、ライセンス費用を支払う代わりに、全ての利用者が何ギガバイトもの音楽データをアップロードするための帯域にかかる費用を節約し、レディー・ガガの最新シングルを1千万コピーも保管するコストを節約することができるわけだ。

どうなるかを予測するのは難しいが、アマゾンとグーグルのおかげで、レコードレーベルにとってアップルの提案がより魅力的になったはずだ。複雑な音楽ライセンスの世界でさえ、いかなるロイヤリティであれ、それがレーベルの期待よりも安かったとしても、何もないよりは無限にマシなのだから。

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ソース:GigaOM - Why Apple Is Negotiating Licensing Deals for Its Cloud Music Service By Weldon Dodd Jun. 1, 2011, 3:25pm PT (http://gigaom.com/apple/why-apple-is-negotiating-licensing-deals-for-its-cloud-music-service/)

愛はお金じゃ買えない:うまくいくアプリといかないアプリ

GigaOMに3月25日に掲載された記事を訳しました。

Lalaの創業者Bill Nguyenが新たに「Color」というアプリ/サービスを立ち上げ、ベンチャーキャピタルから4,100万ドル集めたことで注目されています。ソーシャル系のアプリやサービスはなんでもそうですが、利用者数がキャズムを超えられるかどうかが成功・失敗の分かれ道です。そのために、いかに利用者を惹きつけることが出来るかが重要なのですが、Colorはどうでしょうか?

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愛はお金じゃ買えない:うまくいくアプリといかないアプリ
By オム・マリク 2011年3月25日 5:00am PT / GigaOM

ニューヨークからサンフランシスコに帰るフライトの揺れる機内で、最新アプリのColorに関する大騒ぎの全てに、やっと目を通すことができた。Colorチームは、一流ベンチャーファームのセコイアキャピタルや、その他著名投資家グループから集めた(広報とマーケティング担当副社長のジョン・クーチの手助けは言うに及ばず)膨大な額のキャッシュで、衆人の注目をあつめることになった。

しかし、こういう注目の集め方は正しくない。アプリにとって必要なのはユーザーからの注目だけだと思うからだ。ジェイソン・キンケイドの記事を見てから、このロケーションとソーシャルを意識した写真共有アプリをダウンロードしたが、私にはこのアプリがサハラ砂漠の尽きることない砂のごとく不毛なものに感じた。そのうちサービスの利用者が増えてくればそれも変わるだろうと言う人もいるが。

この騒ぎのなかで見落とされているのは、ウェブとモバイルのエコシステム全体を包み込む、より大きな問題だ。Colorアプリは、今日の多くのモバイルアプリと同様、ある問題に直面している。それは、どんどん選択肢が増えて混雑してきた世界で、いかにしてユーザーの注目を集めることができるか、というものだ。実際、この議論はすべての消費者向けサービス(新らしい家庭用製品、デバイス、新旧のメディアなど)に敷衍することが可能だ。

こういうサービスは、ゆらめき瞬きそして常に変化し続けるタイムズスクウェア周囲のビルの壁面広告のようなもので、そのいずれも焦点を合わせ続けるのは不可能に近い。大きいのもあれば明るいのもあるが、大概は完全に忘れられるのが落ちだ。

多くの起業家はやその支援者たちは、この「注目」に対する認識が不十分だ。もしも新しいスタートアップ企業が、我々のこのフェイスブックとツイッターに支配され、CitiVilleで遊び、レディー・ガガを聴き、レベッカ・ブラックのビデオを共有する一日から時間を切り取れるとしたら、それこそ真に注目すべきスタートアップなのだ。

Instagr.amは、我々の多忙な生活の中になんとか入り込む隙間を見つけたアプリの一つだ。現在数百万のユーザーを抱えており、テクノロジー通と呼べるような人はそのうち数千人に過ぎない。同様に、Beluga(フェイスブックにより買収された)、SpotifyEvernoteInstapaperなども、ユーザーの注目を集め(故に利用され)ることに成功した。

我々が日々ウェブやモバイルに費やしている時間を置き換えなければならないか?それは分からない。分かっていることといえば、私がPicPlzに1ヶ月近くアクセスしていないということだ。このサービスは繰り返しメール通知を送りつけてくるのだが。私はSkypeと比べて、Nimbuzzにより注目している。なぜなら、このサービスを使えばGoogle Talk経由で同僚宛にインスタントメッセージを送信できるからだ。結果として、長距離電話を掛ける場合、SkypeよりもNimbuzzのコールアウトサービスをより頻繁に利用している。

こういう例をいくつも見てみると、なぜ私がこういうサービスに注目するのか、二つのはっきりとした理由が見えてくる:

  • シアワセ(言い換えれば、充実)
  • 効用(言い換えれば、問題解決)

私は今、これらの課題に関する本を2冊読んでいる。通常読むのとは異なる種類のビジネス書だ。というのは、普段読むのは何かを系統だてて学ぶような本なので。にもかかわらず、ここで紹介する本の作者たちはふたりとも極めて素晴らしい人たちなので読む価値があると思う。

元アップルのエバンジェリストで、現在はフリーのエバンジェリストであるガイ・カワサキの新刊が「Enchantment(魔法)」。あれやこれやの売り文句を取り除けば、カワサキの言っているのは要するに、顧客を喜ばせさえすれば注目という見返りを得ることができ、ひいてはお金を得ることができるということだ。

ガイはこのことをアップルで学んだ。我々の殆どはアップルをハードウェア製造の会社だと考えているがそうではない。起亜やダッジみたいなのをハードウェアの会社というのだ。アップルはシアワセをビジネスにしている会社なのだ。それこそが、アップル製品にから受ける最初にして最大の感情だ。ビジネスのその他の部分は、あなたのクレジットカードをアップルストアの気障ったらしい店員に手渡させるための形式的なものに過ぎない。

このことはボーズ社のオーディオシステムにも言える。いちオーディオマニアとして、ボーズのスピーカーだなんて考えただけで寒気がする。私の義理の兄弟にとっては、至福のオーディオを手に入れるシンプルな手段だ。ボーズにとって幸運なことに、世界は私の義理の兄弟のような人々で満ちている。

Instagr.amがうまくいっている理由の一つは、このサービスにはその「シアワセ」があるからだ。友人の男の赤ん坊を見る、すると楽しい気分になる。マシュー・イングラムがアイスホッケーのゲームを見に行った写真を見る、すると、家族との時間を楽しんでいる彼を見て心が暖かくなる。私はInstagr.amに注目の見返りを与える。それは、Instagr.amが私をシアワセにしてくれるからだ。それがこのアプリの効用だ。

これがまさに、ゲイリー・ベイナーチャックが「The Thank You Economy(感謝の経済)」の中でテーマにしている心理だ。著者は同書の中で、顧客に対して最大の価値を提供する企業こそが勝利するとしている。古風な考え方で、初期の慈善市ぐらい古くて、脱工業化時代の過剰に商業化された時代の中でいつの間にか失われてしまったらしい。

マルコ・アーメントのInstapaperを使うとき、ほとんど毎回私は彼に心ひそかに感謝している。なぜか?それは、彼が私の問題を解決し、人生を管理しやすくしてくれたからだ。結果として、私は喜んで有償版にアップグレードした。そして、Instapaperで記事を保存したり読んだりしていないときには、私はすべての人にこう言っている:使ってみなさい、と。これがまさに「Thank you economy」というものだ。心理的もしくは実用的なつながりを感じる製品だからこそ宣伝をするというわけだ。

素晴らしいタブレットがどんどん市場に出てきている。どれも機能満載で強力かつ技術上の魅力に溢れている。しかしながら、どれもみな苦しい戦いを強いられるだろう。というのは、メーカーはどこも、望遠鏡を逆さに覗き込んでいるのだから。友人のピップ・コバーンがメールをくれた。iPadは、そのユーザーこそが製品の究極のコマーシャルなのだと。利用者が増えれば増えるほど、欲しがる人もまた増える。「人が信じるのは、売上を上げるための事業計画書を持ち歩いたり人を操作したりしないような人たちだ。」ピップはそう書いている。ピンポン!

私の言うことが信じられないって?それなら、日々の日課をシアワセと効用の二つのバケツに振り分けてみよう。きっと、これらの二つのことこそが、成功するアプリ、サービス、製品やメディアを支える推進力になっていることに気づくはずだ。

PathPicPlzそしてColorのようなサービスを、私は嫌いなのではない。実はもっと悪くて、関心がないのだ。なぜか?それは、これらのアプリには、常に触れていたいと思わせるような共感を呼ぶものが欠けているのだ。共感は、評価額が1億ドルあっても、銀行に4,100万ドルあっても買うことができない。そして、履歴書や経営陣では、人のシアワセを保証することはできないのだ。

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ソース:GigaOM - Money Can’t Buy You Love: Why Some Apps Work, Some Don’t By Om Malik Mar. 25, 2011, 5:00am PT (http://gigaom.com/2011/03/25/money-can%E2%80%99t-buy-you-love-why-some-apps-work-some-dont/)