翻訳蒟蒻

海外のネットの記事などを翻訳します

日本のガス「発見」までの3つのハードル

経済産業省資源エネルギー庁が3月12日、三重県沖でメタンハイドレートからの天然ガスの生産を確認したと報告しました。メタンハイドレートは海底に埋もれているメタンを含んだ氷の層で、日本近海には国内の天然ガス使用量のおよそ100年分もの埋蔵量があると言われています。エネルギー資源に乏しい日本としては、ぜひともこのメタンハイドレートを採掘・利用可能にしたいところですが、必ずしも容易な話ではないようです。

ニューヨーク・タイムズが、エネ庁の発表をもとにかなり前向きな記事を掲載しました。他にも同様のトーンで今回の出来事を報じるニュースサイトがあるようです。しかしながら、Giga OMでは、これに対してかなり否定的な見解の記事を掲載しています。かなり悲観的な見方の記事ですが、実用化に向けてどのような課題を克服しなければならないのかがよくわかります。

--

日本のガス「発見」までの3つのハードル

by Sam Jaffe, Guest Contributor / Giga OM

ニューヨーク・タイムズ報告によると、日本がついに海中からの天然ガス採掘に成功したそうだ。これは一見重要なニュースのように思えるかもしれないが、実際のところ新しくもなければ重要でもなんでもない。炭化水素の資源としてメタンハイドレートが利用可能なのは何世紀も前からわかっていることだ。

そしてその間ずっと、人々はそれを掘り出したいと夢見てきた。しかしながら、夢と現実との間には大きな隔たりがある。日本の研究プロジェクトが達成したのは、メタンハイドレートを経済的かつ安全に利用できるようになるまでのほんの小さな一歩にすぎない。夢を実現するためには幾つもの大躍進が必要だ。

1) 環境制御: メタンハイドレートとは、僅かなメタン分子が内部に閉じ込められた氷の結晶のことだ。しかしこの結晶というのは、冷凍庫にあるような氷とはわけが違う。結晶は格子状の構造をしていて簡単に崩れてしまう。したがって、メタンハイドレート床に衝撃を与えると結晶が連鎖的に崩壊し、海底からメタンガスの大噴出を引き起こしてしまう可能性がある。

これは二つの理由でよろしくない。採掘したいガスは捉えることができず、泡となって大気に放出される貴重な炭酸水素には二酸化炭素の20倍近い温室効果があるのだ。古代の地球温暖化の原因として海底から放出されたメタンをあげる人もいる

すぐに崩れてしまう堆積層を刺激しないようにドリルパイプを突き刺すことなど出来るのだろうか?何かしら答えはあるのかもしれないが、現時点では解決方法を知る人はいない。そして、日本の掘削実験がその点において成功したことを示す徴候はみられない。

2) 経済性: ほとんどのメタンハイドレート埋蔵物は数十または数百フィートの泥と砂利の堆積物の下にある。泥とメタンの層の境界は非常に曖昧だ。したがって、表面まで掘り上げた液体には大量の無関係な物質が含まれていることになる。比較的容易に解決できる問題ではあるが、それにはコストがかかる。

メタンとそれ以外の物質とを分離するのは莫大な費用がかかる作業で、(炭層メタンやシェールガスのような)「がっしりした」天然ガス資源の精製にかかる費用とは比べ物にならない。このコストを回避する容易な方法というのは存在しない。つまり、海底メタンの抽出にかかるコストは、その他のガス堆積物にかかるコストよりも常に割高になるだろう。現在のMMBTU(訳注: BTU=英国熱量単位。MMBTU=百万BTU)あたり$3.64というガス価格では、メタンハイドレートプロジェクトに投資したいという人はいない。

3) インフラ: 現時点では、海底のメタン堆積物を採掘し、処理し、運搬するための産業インフラといものが存在しない。これまでの非常に稠密な地下堆積物とは違い、海底メタン床は極度に広大な領域に広がって存在している。

メタンを一時的に抽出するだけであれば、資源のある場所にあわせて移動可能な専用の浮遊設備があればよいだろう。ハイドレートを収集して利用可能な燃料に転換するために全く新規にインフラを構築しなければならないというのは、絶対無理というわけではないものの、全く新しく未検証な設備に数百億ドルを投資することをためらわせる理由としては十分だ。

日本の「発見」に対する興奮気味のレポートの中には(既にいくつかの日本カナダの実験でメタンをハイドレート床から取り出すことに成功しており、今回の日本のプロジェクトには実際にはなにも新しいところはない)、全く新しい化石燃料資源を偶然発見したかのような主張をしたものがあるが、実際はそこまで素晴らしいものではない。

確かに、世界中の海底には莫大な量ののメタンが埋もれている。そしてまた、それを外に取り出す方法もきっとあるだろう。しかしおそらく、メタンのほとんどは今後数世紀は埋もれたままでいる可能性が高い。

--

ソース: 3 hurdles for Japan’s gas “discovery” MARCH 14, 2013